雑の和歌

  1. 納涼
      1. つゆすがる にはのたまざさ うちなびき ひとむらすぎぬ ゆふだちのくも
      2. なつやまの かげをしげみや たまほこの みちゆくひとも たちどまるらむ
      3. まつかげの いはゐのみづを むすびあげて なつなきとしと おもひけるかな
      4. よられつる のもせのくさの かげろひて すずしくくもる ゆふだちのそら
      1. ゆふだちの くももとまらぬ なつのひの かたぶくやまに ひぐらしのこゑ
      2. かはぎりの ふもとをこめて たちぬれば そらにぞあきの やまはみえける
      1. あふみのうみ ゆふなみちどり ながなけば こころもしのに いにしへおもほゆ
      2. おとはやま けさこえくれば ほととぎす こずゑはるかに いまぞなくなる
      3. さみだれに ものおもひをれば ほととぎす よふかくなきて いづちゆくらむ
      4. なつのよの ふすかとすれば ほととぎす なくひとこゑに あくるしののめ
  2. 人情
      1. いせのうみの おきつしらなみ はなにもが つつみていもが いへづとにせむ
      2. こととはぬ きすらいもとせと ありといふを ただひとりごに あるがくるしさ
      3. うまかはば いもかちならむ よしゑやし いしはふむとも あはふたりゆかむ
      4. かぎりなき くもゐのよそに わかるとも ひとをこころに おくらさむやは
      5. いのちだに こころにかなふ ものならば なにかわかれの かなしからまし
      6. みづのうへに うかべるふねの きみならば ここぞとまりと いはましものを
      7. はるひさす ふぢのうらばの うらとけて きみしおもはば われもたのまむ
  3. 偲ぶ
      1. うれしきも うきもこころは ひとつにて わかれぬものは なみだなりけり
      2. おもひいづる ときぞかなしき よのなかは そらゆくくもの はてをしらねば
      3. おもかげを あひみしかずに なすときは こころのみこそ しづめられけれ
      4. みづのおもに しづくはなのいろ さやかにも きみがみかげの おもほゆるかな
      5. こゑをだに きかでわかるる たまよりも なきとこにねむ きみぞかなしき
  4. ユーモア
      1. いけるひと つひにもしぬる ものにあれば このよにあるまは たのしくをあらな
      2. こむといふも こぬときあるを こじといふを こむとはまたじ こじといふものを
      3. をとつひも きのふもけふも みつれども あすさへみまく ほしききみかも
      4. かたちこそ みやまがくれの くちきなれ こころははなに なさばなりなむ

納涼

つゆすがる にはのたまざさ うちなびき ひとむらすぎぬ ゆふだちのくも

露すがる庭の玉笹うちなびき ひとむら過ぎぬ夕立の雲(藤原公経・新古今265)
「雨露のついた庭の笹を揺らし、夕立雲がひとかたまり過ぎていった」
・銀泥で描いた大和絵のよう

なつやまの かげをしげみや たまほこの みちゆくひとも たちどまるらむ

夏山の影を茂みや たまほこの道行く人も立ち止まるらむ(貫之・拾遺集130)
・延喜御時、藤原定国四十賀屏風に
「夏山の木陰がよく繁っているからか。道行く人も立ち止まり涼んでいる」
・そういう絵に付けた歌なんでしょうが、爽やかです

まつかげの いはゐのみづを むすびあげて なつなきとしと おもひけるかな

松影の岩井の水をむすび上げて 夏なき年と思ひけるかな(恵慶法師・拾遺集131)
・河原院の泉のそばで涼んでいて
「松の木蔭の泉の水をすくい上げれば、夏のない年だと思われるほど冷たい」
・本当は暑くても、一時でも涼を呼ぶ歌です

よられつる のもせのくさの かげろひて すずしくくもる ゆふだちのそら

よられつる野もせの草のかげろひて 涼しく曇る夕立の空(西行・新古今263)
「萎れた草原が翳り、涼しく曇る夕立の空」
・野もせ…もともと「野も狭く」の意だったものが、ここでは「野面」の意に
・よられつる…夏の陽射しに萎れた様子? 「寄る」か「縒る」なのか分かりません

ゆふだちの くももとまらぬ なつのひの かたぶくやまに ひぐらしのこゑ

夕立の雲もとまらぬ 夏の日の かたぶく山にひぐらしの声(式子内親王・新古今268)
・百首歌の中に
「夕立雲はどこかに消え、夏の夕陽の沈む山に、ほら蜩の声が」
・刻々と空の色の変わる晩夏の夕暮れです

かはぎりの ふもとをこめて たちぬれば そらにぞあきの やまはみえける

河霧の麓をこめて立ちぬれば 空にぞ秋の山は見えける(深養父・拾遺集202)
「河霧がふもとに立ちこめているから、まるで空に浮いているように見える秋の山」
・幽玄な、それでいてダイナミックな、不思議な歌です。山へのある種の畏怖も感じられます

あふみのうみ ゆふなみちどり ながなけば こころもしのに いにしへおもほゆ

近江の海夕波千鳥汝が鳴けば 心もしのにいにしへ思ほゆ(人麻呂・万葉集268)
「夕波立つ海辺に千鳥が鳴くと、昔が思われて辛い」
・この千鳥は、天智天皇の象徴?

おとはやま けさこえくれば ほととぎす こずゑはるかに いまぞなくなる

音羽山けさ越えくれば ほととぎす こずゑはるかに今ぞ鳴くなる(友則・古今集142)
・京から東国に下る途中の音羽山を越えたとき、ほととぎすが鳴いたので
「音羽山を今朝越えてきたら、今ほととぎすが梢高くで鳴いているよ」
・音と名に付く音羽山を通った御蔭で今ほととぎすの良い音(声)を聞けた、と旅の途中で喜び合ったのでしょう

さみだれに ものおもひをれば ほととぎす よふかくなきて いづちゆくらむ

五月雨に物思ひをれば ほととぎす夜ふかく鳴きていづちゆくらむ(友則・古今集153)
・宇多天皇の御代の歌合せの歌
「五月雨の降る夜明け前に寝られずにいると、ほととぎすの鳴く声が。一体どこへゆくのか」
・長雨忌みで女の所へも通えないので、自由に夜歩きできるほととぎすを羨むポーズの歌

なつのよの ふすかとすれば ほととぎす なくひとこゑに あくるしののめ

夏の夜の臥すかとすれば ほととぎす鳴く一声に明くるしののめ(貫之・古今集156)
・宇多天皇の御代の歌合せの歌
「夏の夜、横になったと思ったらほととぎすの声にめざめた。もう空が白んでいる」
・こっちは上の歌よりもうちょっと空が明るくなってるし、もっと暑かった気がします

人情

いせのうみの おきつしらなみ はなにもが つつみていもが いへづとにせむ

伊勢の海の沖つ白波花にもが 包みて妹が家づとにせむ(安貴王・万葉集309)
・元正天皇御幸の際?
「あの海原にたつ白波が花だったら、君へのお土産にできたのに」
・かわいくて優しい歌です

こととはぬ きすらいもとせと ありといふを ただひとりごに あるがくるしさ

言とはぬ木すら妹と兄とありといふを ただ独り子にあるが苦しさ(市原王・万葉集1012)
・市原王、独り子にあることを悲しぶる歌
「何も言わない木にだって兄妹があるのに、私だけひとりっこなのが辛い」
・私もひとりっこなんで、しみじみ共感

うまかはば いもかちならむ よしゑやし いしはふむとも あはふたりゆかむ

馬買はば妹かちならむ よしゑやし石は踏むとも吾は二人行かむ(万葉集3331)
・奥さんが他の家みたいに旦那を馬に乗せてやりたくて自分の大事なものを売ろうとしたとき、旦那が詠んだ歌
「馬を買うと君だけ徒歩になる、いいよいいよ、石を踏んでも二人で歩いていこう」
・ちょっと「賢者の贈り物」風です。民謡だと言う説も

かぎりなき くもゐのよそに わかるとも ひとをこころに おくらさむやは

かぎりなき雲居のよそに別るとも 人を心におくらさむやは(古今集367)
「この世の果てのような地へ行こうともあなたを心の中に連れてゆく」
・すっきりしているゆえに味わい深いような

いのちだに こころにかなふ ものならば なにかわかれの かなしからまし

命だに心にかなふものならば なにか別れのかなしからまし(白女・古今集387)
・筑紫へ湯治に行ってしまう男との別れを惜しんで贈った歌
「ずっと生きていられるなら、別れなんて悲しくありません」
・命さえあればまた逢えます

みづのうへに うかべるふねの きみならば ここぞとまりと いはましものを

水の上に浮かべる舟の君ならば ここぞ泊りと言はましものを(伊勢・古今集920)
・親王家の進水祝いの日、夕方になり親王の父法皇がお帰りになるときに
「あの舟があなた様なら、ここが舟泊りです、と申し上げとうございましたが…」
・舟を君主にたとえる故事があったそうです。女らしい優しい心遣いゆえか、恋の雰囲気も漂っています

はるひさす ふぢのうらばの うらとけて きみしおもはば われもたのまむ

春日さす藤のうら葉のうらとけて 君し思はば我もたのまむ(後撰集100)
・男から「もっと頼ってくれよ」というふうな事を言ってきたので
「うららかな春の日の藤のやわらかな葉のように、心からうちとけてくれるなら私もね」
・うら葉…葉の先っぽのこと。‘うらとけて’にかかる
・思はば頼まむという交換条件が、恋というより復縁っぽくて面白いです

偲ぶ

うれしきも うきもこころは ひとつにて わかれぬものは なみだなりけり

うれしきも憂きも心はひとつにて 分かれぬものは涙なりけり(後撰集1188)
・物思いに沈んでいたとき高貴な人から(たぶん手紙で)見舞いを受けて
「嬉しくても憂わしくても、同じように涙は流れるのですね」
・やんごとない人に見舞ってもらった嬉しさと、癒えぬ物思い。性質は違うのに、落涙という現象は同じ

おもひいづる ときぞかなしき よのなかは そらゆくくもの はてをしらねば

思ひいづる時ぞかなしき 世の中は空ゆく雲の果てを知らねば(後撰集1190)
・物思いに沈んでいたとき人に送った
「時折こんな日々を思い出しては、つらくなるんでしょうね。行雲のように行く末も知れぬ人生では」
・「世の中」という語の解釈によっては歌のニュアンスが変わるので、辞書でご確認を

おもかげを あひみしかずに なすときは こころのみこそ しづめられけれ

面影を逢ひ見し数になす時は 心のみこそ静められけれ(伊勢・後撰集1208)
「お姿を思い起こす事もお会いした数に加えられるなら、心だけでも静められましょうが…」
・誰の面影なのか―恋人とも兄弟とも言われています
・妄想すら会った数に入れたいくらい、満足には会ってないんでしょう

みづのおもに しづくはなのいろ さやかにも きみがみかげの おもほゆるかな

水の面にしづく花の色 さやかにも君が御かげのおもほゆるかな(小野篁・古今集845)
・先帝崩御の服喪の年、池のほとりの花を見て
「水に映るこの花の色のように、あざやかにあの御方の面影が思い出されます」
・しづく…水底に沈みついている様子。水面に映じた花が水中花のように見えた

こゑをだに きかでわかるる たまよりも なきとこにねむ きみぞかなしき

声をだに聞かで別るる魂よりも なき床に寝む君ぞかなしき(古今集858)
・男が遠出している間に急病になった女の、辞世の歌
「あなたの声も聞けずに死んでしまう私より、これから独り寝になってしまうあなたがかわいそうで…」
・死の床についても夫のことを思いやる気持ち

ユーモア

いけるひと つひにもしぬる ものにあれば このよにあるまは たのしくをあらな

生ける人 遂にも死ぬるものにあれば この世にある間は楽しくをあらな(旅人・万葉集352)
・大伴旅人が宴席で酒を礼讃して詠んだ中の一首
「みんな結局死んじゃうんだから生きてる間は楽しくやろうよ」
・そうなんですが、ちょっと身も蓋もないです

こむといふも こぬときあるを こじといふを こむとはまたじ こじといふものを

来むと言ふも来ぬ時あるを 来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを(坂上郎女・万葉集530)
・ダンナの藤原麻呂からの歌にふざけて応えた歌
「来るったって来ない時があるんだから、来ないってのを待つわけないじゃない」
・妻問い婚なのです。こういうことを言い合えるなんて仲が良いんですね

をとつひも きのふもけふも みつれども あすさへみまく ほしききみかも

をとつひも昨日も今日も見つれども 明日さへ見まく欲しき君かも(橘文成・万葉集1019)
・長屋王の孫の門部王邸での宴での歌
「一昨日も昨日も今日も会ったけど明日も会いたいあなた様です」
・阿諛追従の歌?でも恋の和歌といってもおかしくないですな

かたちこそ みやまがくれの くちきなれ こころははなに なさばなりなむ

かたちこそ深山がくれの朽木なれ 心は花になさばなりなむ(兼芸法師・古今集875)
・女性たちが自分を見て笑いものにしたので
「見た目は悪くても心ばえは花のように美しくなれるんだよ」
・論語を踏まえているらしいです。笑った女たちは、見た目は良くても心根が悪い


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