夢の和歌

  1. 夢の中での逢瀬
      1. おもはぬに いもがゑまひを いめにみて こころのうちに もえつつぞをる
      2. こひしねと するわざならし むばたまの よるはすがらに ゆめにみえつつ
      3. おもひつつ ぬればやひとの みえつらむ ゆめとしりせば さめざらましを
      4. はかなくて ゆめにもひとを みつるよは あしたのとこぞ おきうかりける
      5. いのちにも まさりてをしく あるものは みはてぬゆめの さむるなりけり
      6. ゆめにだに みゆとはみえじ あさなあさな わがおもかげに はづるみなれば
      7. すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよぐらむ
      8. おもひやる こしのしらやま しらねども ひとよもゆめに こえぬよぞなき
      9. ねられぬを しひてわがぬる はるのよの ゆめをうつつに なすよしもがな
  2. 夢のような逢瀬
      1. ほととぎす ゆめかうつつか あさつゆの おきてわかれし あかつきのこゑ
      2. ゆめよりも はかなきものは なつのよの あかつきがたの わかれなりけり
      3. きみやこし われやゆきけむ おもほえず ゆめかうつつか ねてかさめてか
      4. むばたまの やみのうつつは さだかなる ゆめにいくらも まさらざりけり
      5. ゆめぢには あしもやすめず かよへども うつつにひとめ みしごとはあらず
  3. 夢のような儚さ
      1. よのなかは ゆめかうつつか うつつとも ゆめともしらず ありてなければ
  4. 遣り取りの歌
      1. かげろふの ほのめきつれば ゆふぐれの ゆめかとのみぞ みをたどりつる
      2. ほのみても めなれにけりと きくからに ふしかへりこそ しなまほしけれ
      3. おもひねの よなよなゆめに あふことを ただかたときの うつつともがな
      4. ときのまの うつつをしのぶ こころこそ はかなきゆめに まさらざりけれ

夢の中での逢瀬

おもはぬに いもがゑまひを いめにみて こころのうちに もえつつぞをる

思はぬに妹が笑まひを夢に見て 心のうちに燃えつつぞ居る(家持・万葉集721)
・丹波大女娘子に贈った中の一首
「思いがけず君の笑顔を夢に見て恋の炎が抑えきれなくなっている」
・笑顔が胸に焼き付いているんでしょうね。鮮やかな印象の歌です

こひしねと するわざならし むばたまの よるはすがらに ゆめにみえつつ

恋ひ死ねとするわざならし むばたまの夜はすがらに夢に見えつつ(古今集526)
「焦がれ死にしろということか、あなたが一晩中夢に出てくる」
・相手が想うから夢に見ると信じられていたので、あらぬ期待を抱いてしまい、余計悶々とするのでは

おもひつつ ぬればやひとの みえつらむ ゆめとしりせば さめざらましを

思ひつつぬればや人の見えつらむ 夢と知りせばさめざらましを(小町・古今集552)
「あの人を思いながら寝たから逢えたのね、夢と分かっていたら目覚めなかったのに」
・おいしいものを食べる夢を見たときも同じ心境です

はかなくて ゆめにもひとを みつるよは あしたのとこぞ おきうかりける

はかなくて夢にも人を見つる夜は あしたのとこぞ起きうかりける(素性法師・古今集575)
「逢えなくて夢であの人を見た翌朝は、なかなか起きる気になれない」
・そういえば、当て字ですが人偏に夢で「儚い(はかない)」ですね

いのちにも まさりてをしく あるものは みはてぬゆめの さむるなりけり

命にもまさりて惜しくある物は 見果てぬ夢のさむるなりけり(忠岑・古今集609)
「命より惜しいのは、夢の途中で覚めてしまうこと」
・夢での逢瀬が重視されていました(夢に見る=向こうが思ってくれている)

ゆめにだに みゆとはみえじ あさなあさな わがおもかげに はづるみなれば

夢にだに見ゆとは見えじ 朝な朝な我が面影にはづる身なれば(伊勢・古今集681)
「夢でさえこの身をお目に掛けたくないの、あなたを思ってこんなにやつれたから」
・逆に、もともと美人じゃないとこういうことは言えません
・上記 526・609 のように、自分が思うと相手の夢に出てしまうと信じられてました

すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよぐらむ

住江の岸による浪よるさへや 夢の通ひぢ人目よぐらむ(藤原敏行・古今集559)
・宇多天皇の御代の歌合せでの歌
「住江の海岸に浪の寄る、夜の夢の通り道でさえ、君は人目を避けているの」
・百人一首にも採られています

おもひやる こしのしらやま しらねども ひとよもゆめに こえぬよぞなき

思ひやる越の白山 しらねども ひと夜も夢に越えぬ夜ぞなき(貫之・古今集980)
・越の国にいる人におくった
「越の白山は知らないけれど、夢の中で越えない日はないよ」
・毎晩夢の中では山を越えてあなたに逢いに行ってます、ということ

ねられぬを しひてわがぬる はるのよの ゆめをうつつに なすよしもがな

寝られぬをしひて我が寝る春の夜の 夢をうつつになすよしもがな(後撰集76)
「春の夜の夢を、現実のことにするすべはないものか」
・逢えぬ恋の苦しさで眠れぬ日が続き、久々に見た夢の中で好きな人に逢えたんでしょうか

夢のような逢瀬

ほととぎす ゆめかうつつか あさつゆの おきてわかれし あかつきのこゑ

ほととぎす夢かうつつか 朝露のおきて別れし暁のこゑ(古今集641)
「朝露の置く朝、起きてあの人と別れた時のほととぎすの一声は、夢かうつつか」
・「おきて」=(朝露が)置きて・(朝)起きて。露は涙も連想させます

ゆめよりも はかなきものは なつのよの あかつきがたの わかれなりけり

夢よりも儚きものは夏の夜の暁がたの別れなりけり(忠岑・後撰集170)
「夢よりも儚い、夏の夜明けの別れ」
・忠岑集には、女性と密会したがすぐ夜が明けたので、という旨の詞書があるそうです

きみやこし われやゆきけむ おもほえず ゆめかうつつか ねてかさめてか

君や来し我や行きけむ おもほえず 夢かうつつか寝てか覚めてか(古今集645)
・斎宮?が業平に、逢瀬の翌朝贈った(とされている)歌
「あなたが来たのか私が行ったのか、夢だったのか現実だったのかさえ…」
・業平からの後朝の文を待たずに自分から先に贈ってきています

むばたまの やみのうつつは さだかなる ゆめにいくらも まさらざりけり

むばたまの闇のうつつは さだかなる夢に幾らもまさらざりけり(古今集647)
「夜の闇の中での逢瀬は、まざまざと見た夢に到底及ばない」
・これが千年昔の現実? ‘劣らざりけり’じゃないのがちょっと酷いかも
・ゆっくりじっくり逢いたいという思いの裏返しかもしれません

ゆめぢには あしもやすめず かよへども うつつにひとめ みしごとはあらず

夢路には足もやすめず通へども うつつに一目見しごとはあらず(小町・古今集658)
「夢の中では休むことなく逢っていても、現実の逢瀬にはかないません」
・上記647に真っ向から対立するような…やっぱり夢は現に勝てません

夢のような儚さ

よのなかは ゆめかうつつか うつつとも ゆめともしらず ありてなければ

世の中は夢かうつつか うつつとも夢とも知らずありてなければ(古今集942)
「この世は現実なのか夢なのか、結局あるようでないものなのだ」
・千年昔の人もこういうことを考えていたと思うとびっくりです

遣り取りの歌

かげろふの ほのめきつれば ゆふぐれの ゆめかとのみぞ みをたどりつる

ほのみても めなれにけりと きくからに ふしかへりこそ しなまほしけれ

かげろふの ほのめきつれば 夕暮の夢かとのみぞ身をたどりつる(後撰集856)
ほの見ても目なれにけりと聞くからに 臥し返りこそ死なまほしけれ(後撰集857)

男「この逢瀬も夕暮の陽炎が見せた夢なのではと、我が身に残る記憶をたどってしまった」
女「一目お逢いしただけで夢に見るほど見飽きてしまったなんて、もう死んでしまいたい」
・情感たっぷりの男の歌に対し、たどたどしいような女の歌ですが、したたかさが見え隠れしています

おもひねの よなよなゆめに あふことを ただかたときの うつつともがな

ときのまの うつつをしのぶ こころこそ はかなきゆめに まさらざりけれ

思ひ寝の夜な夜な夢に逢ふ事を ただ片時のうつつともがな(後撰集766)
時の間のうつつをしのぶ心こそ はかなき夢にまさらざりけれ(後撰集767)

つれない女へ「夜毎あなたに夢で逢うことが、一時でも現実のことになれば……」
女からの返し「ほんの一時の現実など望むそのお心こそ、儚い夢よりもろいものだと思います」
・‘せめてひとときだけでも’という男に対し、‘たったひとときだけ?!’と切り返す女。このように言葉尻をとらえ、わざと曲解するのは恋の場面の常套手段です


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