
よく使われる枕詞(まくらことば)を紹介します。
枕詞というのは、’すごくきれい!’とか’怖いなー’とか’本当に大切’とか思ったモノを、強調するときに使う五音の(3・4・6音のもある)言葉です。そういう強い気持ちを相手に伝えるための修飾語で、とくに万葉集に多く使われています。

歌枕(うたまくら)じゃないのね

歌枕は、和歌によく詠まれた定番の名所のことだよ。それはまた別のときにね。
言葉の意味がはっきりとはわかっていないものもありますが、多くは、「〇〇のような・ように〜」という比喩的な使い方のもの、掛詞のように「同じ音で意味の違う言葉」に二重の意味を持たせる使い方のもの、同じ音を繰り返す言葉遊び的な使い方のものに分けられます。
枕詞
代表的な枕詞と、その主な被枕(枕詞が付く言葉)・使用例の一部を表にしました。
ただ、どれを枕詞とするのか・枕詞自体の意味などは色々な説があるようなので、参考程度にして下さい。
枕詞 | 被枕 | 意味 | 例 |
あかねさす | 日/昼/紫/君 | 明け方に空が茜色に染まる様子 | あかねさす紫野行き標野行き… |
あきづしま | 大和 | 蜻蛉、大和の地名→日本全体 | あきづしま大和の国に… |
あしひきの | 山/峰 | 足を引き摺る? | あしひきの山鳥の尾の… |
あづさゆみ | 引く/張る/射/音 | 呪力のある梓の木で作った弓 | あづさゆみはるの山辺を… |
あまざかる | 向ひ/ひな/日 | 遠い空の向こう | あまざかるひなにはあれど… |
あらたまの | 年/月/春 | 新たに、改まった? | あらたまの年の終はりに… |
あをによし | 奈良 | 青や赤(又は青い土)が美しい? | あをによし奈良の都は… |
いはばしる | 近江/垂水 | 岩の上を激しく流れる | いはばしる垂水の上の早蕨の… |
うつせみの | 世/人/命 | この世の人→蝉の抜け殻 | うつせみの世の人ごとの… |
からころも | 着/裁つ/裾/紐 | 外国風の着物 | からころもきつつなれにし… |
くさまくら | 旅/露 | 旅先で草を結んで作った枕 | くさまくら旅行く船の… |
くれたけの | 世/夜/伏し(節) | 葉が細く節が多い呉の竹 | くれたけの伏見の里の… |
しきしまの | 大和 | 昔都があった地 | しきしまの大和の国は… |
しろたへの | 衣/袖/雪 | 木の皮の繊維で作った白布 | しろたへの袖のわかれに… |
そらみつ | 大和 | 神様が空から見た? | そらみつ大和の国に… |
たまかぎる | ほのか/日 | 玉がほのかに光る様子 | たまかぎるほのかに見えて… |
たまきはる | 命/うち/我 | 魂が極まる? | たまきはる命は知らず… |
たまのをの | 長き/絶え/乱れ | 玉に通した緒、魂を繋ぐ緒 | たまのをの長き春日を… |
たまぼこの | 道/里 | 道の目印に立てた美しい鉾 | たまぼこの道はつねにも… |
たらちねの | 母/親 | 垂らす+乳+女性? | たらちねの母のみことは… |
ちはやぶる | 神/宇治 | 荒々しい、激しい | ちはやぶる神世もきかず… |
とぶとりの | 飛鳥 | 飛ぶ鳥? | とぶとりのあすかの里を… |
とりがなく | 東 | 鳥の声のように訛りがきつい東国 | とりがなくあづまの国の… |
にほどりの | 潜く | 水にもぐるカイツブリ | にほどりの潜く池水… |
ぬばたまの | 黒/夜/夢 | ヒオウギの種(真っ黒) | ぬばたまの夢に見えつつ… |
ひさかたの | 天/月/光 | 永久に固い?日が射す方? | ひさかたの光のどけき… |
ふゆごもり | 春 | 冬の間じっとしている | ふゆごもり春さり来れば… |
まそかがみ | 見る/清き/照り | 曇りのない鏡 | まそかがみ清き月夜に… |
みづくきの | 水城/岡 | 水に浸かる城 | みづくきの水城の上に… |
むらぎもの | 心 | 内臓 | むらぎもの心くだけて… |
もののふの | 八十/矢野 | 武人の | もののふの八十をとめらが… |
ももしきの | 大宮 | 多くの石や木 | ももしきの大宮人は… |
やくもたつ | 出雲 | さかんに雲が湧く様子 | やくもたつ出雲八重垣… |
わかくさの | 夫/妻 | 春先に出た若い草 | わかくさの夫かあるらむ… |

被枕の五十音順にしてみるよ。まだまだ未完成です!
被枕 | 枕詞 | 例歌の一部 |
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あかぬ(飽かぬ) | あかほしの(明星の) | 明星の飽かぬ心に出でてくやしく(古今六帖375) |
あけ | あけごろも(緋衣) | 緋衣明けなば人をよそにこそ見め(後撰集1117) |
あけ(明け) | あかほしの(明星の) | 明星の明けゆく空に星うたふ声(夫木集7498) |
あさ(朝) | あからひく(赤ら引く) | 赤ら引く朝行く君を待たば苦しも(万葉集2389) |
あさく(浅く) | あさかやま(浅香山) | 浅香山浅くも人を思はぬに(源氏・若菜) |
あさたち(朝立ち) | あさとりの(朝鳥の) | 朝鳥の朝立ちしつつ(万葉集1785) |
あす(明日) | あすかがは(飛鳥川) | 飛鳥川明日も渡らむ石橋の(万葉集2701) |
あり(在り) | ありちがた(在千潟) | 在千潟在りなぐさめて行かめども(万葉集3161) |
ありて(在りて) | ありきぬの(蚕衣の) | 蚕衣のありて後にも(万葉集3741) |
い | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓いそべの小松(古今集907) |
いづ(出づ) | あをくもの(青雲の) | 青雲の出で来わぎもこ(万葉集3519) |
いと | あをやぎの(青柳の) | 青柳のいとつれなくもなりゆくか(後撰集67) |
いもがめ(妹が目) | あぢさはふ | あぢさはふ妹が目離れて(万葉集942) |
いる | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓いるさの山にまどふかな(源氏物語) |
うき | あしねはふ(葦根這ふ) | 葦根はふうき身のほどや(新勅撰1346) |
うるや川 | あさかしは(朝柏) | 朝柏閏八川辺の小竹の芽の(万葉集2754) |
うるわ川 | あきかしは(秋柏) | 秋柏潤和川辺の小竹の目の(万葉集2478) |
おさかのやま(忍坂の山) | あをはたの(青旗の) | 青旗の忍坂の山は(万葉集3331) |
おと | あまびこの(天彦の) | 天彦の音羽の山の春霞(古今集1002) |
おと(音) | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓音に聞きて(万葉集207) |
おの(己) | あさぢふの(浅茅生の) | 浅茅生のおのづから吹く夏の夕風(続拾遺集209) |
かぐやま(香具山) | あもりつく(天降りつく) | 天降りつく天の香具山霞立つ(万葉集257) |
かしま(鹿島) | あられふり(霰降り) | 霰降り鹿島の神を祈りつつ(万葉集4370) |
かすが(春日) | あさひさす(朝日さす) | 朝日さす春日の山に霞たなびく(万葉集1844) |
かづらき(葛城) | あをやぎの(青柳の) | 青柳の葛城山に(新古今74) |
かづらきやま(葛城山) | あをはたの(青旗の) | 青旗の葛城山にたなびける(万葉集509) |
かひ(鹿火) | あさがすみ(朝霞) | 朝霞鹿火屋が下に鳴く河蝦(万葉集2265) |
かへす | あらをだを(新小田を) | 新小田をかへすがへすも(新古今集89) |
かへる | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓かへるあしたの(金葉集513) |
かよひ(通ひ) | あさとりの(朝鳥の) | 朝鳥の通はす君が(万葉集196) |
かり(雁) | あまとぶや(天飛ぶや) | 天飛ぶや雁を使ひに(万葉集3676) |
かる(軽) | あまとぶや(天飛ぶや) | 天飛ぶや軽の路は(万葉集207) |
き(紀) | あさもよし(麻裳よし) | 麻裳よし紀へ行く君が(万葉集1680) |
きしみ(吉志美) | あられふり(霰降り) | 霰降り吉志美が嶽をさがしみと(万葉集385) |
きのへ(城上) | あさもよし(麻裳よし) | 麻裳よし城上の宮を(万葉集199) |
きみ(君) | あかねさす(茜さす) | |
くぬち(国内) | あをによし(青丹よし) | 青丹よし国内ことごと見せましものを(万葉集797) |
け(消) | あさじもの/沫雪の | 朝霜の消やすき命(万葉集1375) |
こはた(木幡) | あをはたの(青旗の) | 青旗の木幡の上を(万葉集148) |
さき(離き) | あさがほの(朝顔の) | |
さゑさゑ | ありきぬの(蚕衣の) | 蚕衣のさゑさゑしづみ(万葉集3481) |
した | あしねはふ(葦根這ふ) | 葦根はふ下にのみこそ沈みけれ(拾遺集571) |
したひ | あきやまの(秋山の) | 秋山のしたへる妹(万葉集217) |
しらかた(白肩) | あをくもの(青雲の) | |
すゑ | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓末は寄り寝む(万葉集3490) |
たから(宝) | ありきぬの(蚕衣の) | 蚕衣の宝の子らが(万葉集3791) |
つき(月) | あらたまの(新玉の) | |
つしま(対馬) | ありねよし(在り峰よし) | 在り峰よし対馬の渡り(万葉集62) |
つち(土) | あらがねの(粗金の) | |
つばら | あさぢはら(浅茅原) | 浅茅原つばらつばらに物思へば(万葉集333) |
つる | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓鶴の命も(古今六帖4) |
とし(年) | あらたまの(新玉の) | |
とほつ(遠つ) | あられふり(霰降り) | 霰降り遠つ大浦に(万葉集2729) |
とり(鳥) | あまとぶや(天飛ぶや) | 天飛ぶや鳥にもがもや(万葉集876) |
とりかひがは(鳥飼川) | あらひきぬ(洗ひ衣) | 洗ひ衣鳥飼川の川淀の(万葉集3019) |
なら(奈良) | あをによし(青丹よし) | 青丹よし奈良の山の(万葉集18) |
ねなき(音泣き) | あさとりの(朝鳥の) | 朝鳥の音のみ泣きつつ(万葉集481) |
ねもころ(懇ろ) | あしのねの(葦の根の) | 葦の根のねもころ思ひて(万葉集1324) |
のり(法) | あまをぶね(海人小舟) | 海人小舟法に心をかけぬ日ぞなき(金葉集682) |
はず | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓思はずにして(拾遺集568) |
はつか | あまをぶね(海人小舟) | 海人小舟二十日の月の(新勅撰967) |
はつせのやま(泊瀬の山) | あまをぶね(海人小舟) | 海人小舟泊瀬の山に(万葉集2347) |
はつゆき(初雪) | あまをぶね(海人小舟) | |
はる | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓春山近く(万葉集1829) |
はる(春) | あらたまの(新玉の) | |
はるひ(春日) | あさがすみ(朝霞) | 朝霞春日の暮れば(万葉集1876) |
ひ(日) | あまづたふ(天伝ふ) | 天伝ふ日笠の浦に(万葉集1178) |
ひ(日) | あめしるや(天知るや) | 天知るや日の御蔭の水こそば(万葉集52) |
ひ(日) | あかねさす(茜さす) | 茜さす日にむかひても思ひ出でよ(詞花集178) |
ひ(日) | あからひく(赤ら引く) | |
ひき(引き) | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓引きて許さず(万葉集2505) |
ひな(鄙) | あまざかる(天離る) | 天離るひなにはあれど(万葉集29) |
ひる(昼) | あかねさす(茜さす) | 茜さす昼はたゆたひ(新千載集35) |
ひれ(領巾) | あまとぶや(天飛ぶや) | 天飛ぶや領巾片敷き(万葉集1520) |
ふじ(富士) | あまのはら(天の原) | 天の原富士の柴山(万葉集3355) |
ふぢ(藤井・藤江・藤原) | あらたへの(荒栲の) | 荒栲の藤井が原に(万葉集52) |
ふり(古り) | あしがきの(葦垣の) | 葦垣の古りにし郷と(万葉集928) |
ほか | あらがきの(粗垣の) | 粗垣のほかにやわが見む(万葉集2562) |
まぢか(間近) | あしがきの(葦垣の) | 葦垣のまぢかけれども(古今集506) |
みかさ(三笠) | あまごもり(雨隠り) | 雨隠り三笠の山を高みかも(万葉集980) |
みけ(御木) | あさじもの(朝霜の) | 朝霜の御木のさ小橋(紀歌謡24) |
みだれ(乱れ) | あしがきの(葦垣の) | 葦垣の思ひ乱れて(万葉集1804) |
みぢかし(短し) | あしのねの(葦の根の) | 葦の根の短き夜半の(続後撰集209) |
みの | あまごろも(雨衣) | 雨衣たみのの島に鶴鳴きわたる(古今集913) |
みへ(三重) | ありきぬの(蚕衣の) | |
むかひ(向ひ) | あさづくひ(朝づく日) | 朝づく日向ひの山に月立てり見ゆ(万葉集1294) |
むかひ(向ひ) | あまざかる(天離る) | |
むすび(結び) | あきくさの(秋草の) | 秋草の結びし紐を解くは悲しも(万葉集1612) |
むらさき(紫) | あかねさす(茜さす) | 茜さす紫野行き標野行き(万葉集20) |
め(目) | あぢさはふ | あぢさはふ目には飽けども(万葉集2934) |
や | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓矢野の神山(続拾遺集27) |
やへ(八重) | あさがすみ(朝霞) | 朝霞八重山越えて呼子鳥(万葉集1941) |
やま(山) | あしびきの | あしひきの山行きしかば(万葉集4293) |
やまと | あきづしま(蜻蛉島) | うまし国ぞ秋津島やまとの国は(万葉集2) |
よ | あづさゆみ(梓弓) | 梓弓欲良の山辺の(万葉集3489) |
よ(世) | あしのねの(葦の根の) | |
よ(夜) | あしのねの(葦の根の) | 葦の根のよの短くて明くるわびしさ(後撰集888) |
よさみ(依網) | あをみづら(碧海浦) | 青みづら依網の原に(万葉集1287) |
よしの(吉野) | あしがきの(葦垣の) | 葦垣の吉野の山の(続後撰集78) |
よるひるしらず(夜昼知らず) | あぢさはふ | あぢさはふ夜昼知らず(万葉集1804) |
わけて(別けて) | あしのねの(葦の根の) | 葦の根のわけても人に(後撰集681) |
を(小) | あさぢはら(浅茅原) | 浅茅原小谷を過ぎて(記歌謡111) |
を(峰) | あしびきの | あしひきの峰の上の桜(万葉集4151) |
をの(小野) | あさぢはら/あさぢふの |