「若紫」より

藤壺宮が病により宮中を退出、里へ下がった。
帝の心痛を知りつつも、宮に逢うまたとない機会に、思い乱れる源氏。
宮付きの女房である王命婦を口説き落とし、ついに二度目の逢瀬を―

源氏は
見てもまた逢ふ夜まれなる 夢のうちに やがて紛るる我が身ともがな
みてもまた あふよまれなる ゆめのうちに やがてまぎるる わがみともがな
(こんな風に逢うこともままならない、いっそこのまま夢の中に…)
と涙にむせ返っている。

そんな様子のいじらしさに、藤壺が思い乱れるのもごもっとも。
よ語りに人や伝へん たぐひなく憂き身を 醒めぬ夢になしても
よがたりに ひとやつたへん たぐひなく うきみをさめぬ ゆめになしても
(辛いこの身を覚めない夢の中へ沈めても、誰かが口の端に乗せてしまうのでは……)
―王命婦が、直衣などを掻き集め持ってきた。

見てもまた逢ふ夜まれなる

この場面の藤壺の歌ですが、私はかねがね、自分のことしか考えてなくて大人げないし、つまらない詠みぶりだなと思っていました。が、原文を何度も読んでいてハタと気付いたのです。これって王命婦に聞こえていることを前提に詠んでいるんじゃないかと。彼女による世語りあるいは夜語りを、牽制しているのだと。そして、紫式部の側から言えば、物語の体裁が女房の語り口調である以上、お后と皇子の秘密がこんな風に物語として残ることの伏線にしたかったのではなかろうか。……女房は結構近くにいて様子をうかがっていたようです。
それにつけても気になるのは、この逢瀬が二度目であるということ。一度目は原文にありません。「かかやく日の宮」という巻があってそこに書いてあった、という説もありますが、現存していません。
源氏は18歳、藤壺23歳。この逢瀬が元で藤壺は源氏の子を懐妊します。

('03.07.31/'04.02.14に絵を差替)

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