むばたまの夜のみ降れる白雪は
冬の歌の中でも、特に好きな歌です。

むばたまの夜のみ降れる白雪は照る月影の積もるなりけり(後撰集503)月の和歌
むばたまの よるのみふれる しらゆきは てるつきかげの つもるなりけり

それは雪のような月光なのか、月光のような雪なのか―。
新日本古典文学大系『後撰和歌集』脚注にも指摘されていますが、当歌の少し前に「夜ならば月とぞ見まし我がやどの庭白妙に降り積もる雪」(後撰集496)という歌が出てきます。これは昼の庭に積もる雪の眩しいくらいの白さを詠んでいる点で、夜の雪を詠んだ当歌と好対照を成しているようです。

ところで、月光が積もるという発想は、‘雪が降っているならば月は雲隠れしている’という現代の常識からすると少し不思議な気がします。当時の人々は、そういった気象や天文の因果関係を知らなかったか、それほど厳密に考えなかったからなのか。あるいは承知の上で、単純に雪景色の明るさに月光を連想しただけなのか。いや、雲の上で凝り固まった月光の雫が雪となって降ると想像したのかもしれません。

ただ、夜「のみ」とか降れ「る」とか「なりけり」とかの使われ方から、‘雪のやんだ未明に目覚めて外を見たら一面の銀世界、空を見上げたらもう晴れていて有明の月が残っていた’ようなシチュエーションがあって生まれた歌なのではないか、という気がします(あてずっぽ)。

何はともあれ、凍えるような雪景色を美しい歌に結晶させるその心ばえに、私は強く憧れてしまいます。

('03.01.08)

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