*平安時代の和歌で使われた助動詞を中心にまとめました(上代は割愛)。
*間違いがあるといけないので参考程度に留めて下さい。
*参考文献:『岩波古語辞典』・『対訳古典文法』(第一学習社)など

助動詞

不確実なことを言うときに使う

例歌:春雨の花の枝より流れ来ばなほこそ濡れ香もやうつると
意味:「〜だろう」「〜したい」「〜しませんか」「〜だとしたら」「〜のような」
接続:活用語の未然形
活用:(ま)/○/む/む/め/○
類型:【〜こそ…め】の形→適当・勧誘。【む】+体言や【に・には】→仮定・婉曲
*未然形【ま】は【まく】の形で使う。
*一人称の動作+【む】→意思・希望。二人称単数の動作+【む】→催促・命令。二人称複数の動作+【む】→勧誘。三人称の動作+【む】→予想・推量

らむ

例歌:年をへて花の鏡となる水はちりかかるをや曇るといふらむ
意味:「〜しているだろう」「どうして〜しているのだろう」「〜だそうだ」
接続:活用語の終止形・ラ変の連体形
活用:○/○/らむ/らむ/らめ/○
*連体形のときは伝聞・婉曲の場合が多い

けむ

例歌:君や来し我や行きけむ思ほえず夢かうつつか寝てか覚めてか
意味:「〜していただろう」「どうして〜していたのだろう」「〜だったそうだ」
接続:活用語の連用形
活用:○/○/けむ/けむ/けめ/○
*連体形のときは伝聞・婉曲の場合が多い

らし

例歌:水底の月の上より漕ぐ舟の棹にさはるは桂なるらし
意味:「〜らしい」
接続:活用語の終止形・ラ変の連体形
活用:○/○/らし/らし(らしき)/らし/○
類型:けり+らし【けらし】→「やはり〜だったのか」。なり+らし【ならし】→文末で使うことが多い
*現在起こっている事を見ての根拠ある推量のため、疑問文には用いない

めり

例歌:いたづらにたびたび死ぬと言ふめれば逢ふには何をかへむとすらむ
意味:「〜ように見える」「〜ようだ」
接続:活用語の終止形・ラ変の連体形
活用:○/(めり)/めり/める/めれ/○
*視覚に基づく判断のため傍観的。和歌では【らし】を使うことが多い

なり(伝聞推定のほう)

例歌:音羽山けさ越えくればほととぎすこずゑはるかに今ぞ鳴くなる
意味:「〜という」「〜ようだ」
接続:活用語の終止形・ラ変の連体形
活用:○/なり/なり/なる/なれ/○
*聴覚に基づく判断。例歌のように、対象物が見えなくても音で存在を認識したのがもともとの意味

まし

例歌:命だに心にかなふものならばなにか別れのかなしからまし
意味:「もし〜だったら…するだろう(か・に)」
接続:活用語の未然形
活用:ましか(ませ)/○/まし/まし/ましか/○
類型:【〜ば…まし】【〜せば…まし】【形容詞の未然形+は…まし】
*【む】より迷いの度合いが強い

べし

例歌:山風に桜吹きまき乱れなん花のまぎれに君とまるべく
意味:「〜だろう」「〜するつもりだ」「〜しよう」「〜べきだ」「〜できる」
接続:活用語の終止形・ラ変の連体形・上一段の連用形
活用:べく・べから/べく・べかり/べし/べき・べかる/べけれ/○
*そうなる・そうするのが当然だというニュアンス。【む】の意味を強めたもの

べらなり

例歌:風のうへにありか定めぬ塵の身はゆくへも知らずなりぬべらなり
意味:「〜するようだ」
接続:活用語の終止形
活用:○/(べらに)/べらなり/べらなる/べらなれ/○
*【べし】の語幹【べ】+接尾語【ら】+助動詞【なり】

否定するときに使う

例歌:我妹子に恋ひつつあらは秋萩の咲きて散りぬる花にあらましを
意味:「〜でない」
接続:活用語の未然形
活用:ざら/ず・ざり/ず/ぬ・ざる/ぬ・ざれ/ざれ
類型:【〜ずは…まし】の形→恋歌に多い
*【ざらば】【ずは】→「もし〜ないならば」。【ざらむ】=【じ】(係り結びのときに「ざらむ」の形をとる)

例歌:飛鳥川ふちは瀬になる世なりとも思ひそめてん人は忘れ
意味:「〜しないだろう」「〜しないつもり」
接続:活用語の未然形
活用:○/○/じ/(じ)/(じ)/○
類型:【〜は…じ】
*一人称の動作+【じ】→否定的な意思。二人称の動作+【じ】→禁止。三人称の動作+【じ】→打消推量
*已然形に、接続助詞の【ば】【ど】【ども】は付かない

言い切るときに使う

なり(断定のほう)

例歌:うれしきも憂きも心はひとつにて分かれぬものは涙なりけり
意味:「〜だ」
接続:体言と活用語の連体形
活用:なら/なり・に/なり/なる/なれ/(なれ)
類型:より強調したり疑問反語表現にしたいときは【…にこそあれ】【…にあらねども】などの形に
*格助詞【に】+【あり】

相手を敬うとき・自分が何かできるときに使う

例歌:秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかぬる
意味:「(自ずから)〜れる」「〜できる」「〜される」「〜なさる」
接続:四段・ナ変・ラ変動詞の未然形
活用:れ/れ/る/るる/るれ/○(受身・尊敬…れよ)
*受身→無生物・抽象的なものは主語となりにくい。可能→主として否定的表現に用いる。尊敬→和文系には少ない

らる

例歌:面影を逢ひ見し数になす時は心のみこそ静められけれ
意味:「(自ずから)〜れる」「〜できる」「〜される」「〜なさる」
接続:四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形
活用:られ/られ/らる/らるる/らるれ/○(受身・尊敬…られよ)
*【る】に同じ

相手を敬うとき・人に何かさせるときに使う

例歌:年月をまつにひかれてふる人に今日うぐひすの初音聞かせよ
意味:「〜させる」「〜なさる」
接続:四段・ナ変・ラ変動詞の未然形
活用:せ/せ/す/する/すれ/せよ

さす

例歌:あしひきの山の山守もる山も紅葉せさする秋は来にけり
意味:「〜させる」「〜なさる」
接続:四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形
活用:させ/させ/さす/さする/さすれ/させよ

完了したことを言うときに使う

例歌:よられつる野もせの草のかげろひて涼しく曇る夕立の空
意味:「〜した」「きっと〜する」
接続:活用語の連用形
活用:て/て/つ/つる/つれ/てよ
*他動詞(意志的・作為的な動詞)に付くことが多い

例歌:いつのまに散りはてらむ桜花面影にのみ色を見せつつ
意味:「〜した」「きっと〜する」
接続:活用語の連用形
活用:な/に/ぬ/ぬる/ぬれ/ね
*自動詞(自然現象や無作為的な動詞)に付くことが多い

例歌:月影は同じ雲居に見えながら我が宿からの秋ぞかはれ
意味:「〜した」「〜してしまった」「〜している」
接続:サ変の未然形・四段の已然形(またはサ変・四段の命令形?)
活用:ら/り/り/る/れ/(れ)
*

たり(完了のほう)

例歌:宿りして春の山辺に寝たる夜は夢の内にも花ぞ散りける
意味:「〜した」「〜してしまった」「〜している」
接続:活用語の連用形
活用:たら/たり/たり/たる/たれ/(たれ)
*

昔の話をするときに使う

例歌:佐伯山卯の花持ち愛しきが手をし取りてば花は散るとも
意味:「〜だった」
接続:活用語の連用形
活用:(せ)/○/き/し/しか/○
*自分が実際に体験した過去

けり

例歌:うれしきも憂きも心はひとつにて 分かれぬものは涙なりけり
意味:「〜だったそうだ」「〜だったなあ」
接続:活用語の連用形
活用:(けら)/○/けり/ける/けれ/○
*和歌の中ではほとんどが詠嘆の意

平安時代の和歌では用例の少ない助動詞

しむ

意味:「〜させる」
接続:用言の未然形
活用:しめ/しめ/しむ/しむる/しむれ/しめよ
*漢文訓読系

むず

意味:「〜するだろう」
接続:活用語の未然形
活用:○/○/むず/むずる/むずれ/○
*助動詞【む】+格助詞【と】+サ変動詞【す】。俗語臭が強いので専ら会話で用いた

まじ

例歌:面影の忘らるまじき別れかな名残を人の月にとどめて
意味:「〜するまい」「〜しないだろう」「〜するもんか」
接続:活用語の終止形・ラ変の連体形
活用:まじく・(まじから)/まじく・まじかり/まじ/まじき・まじかる/まじけれ/○
*平安時代に入ってからできた語→和歌では【じ】を使うことが多い。
*古形は【ましじ】。【べし】の否定の【べからず】と同意。【じ】より強い調子。

たり(断定のほう)

意味:「〜だ」
接続:体言
活用:たら/たり・と/たり/たる/たれ/(たれ)
*漢文訓読系に多い。平安時代初期にできた語。格助詞【と】+【あり】

ごとし

例歌:我がごとく物やかなしき郭公時ぞともなく夜ただ鳴くらむ
意味:「〜のようだ」「〜のような」
接続:体言・用言の連体形・助詞(が・の)
活用:ごとく/ごとく/ごとし/ごとき/○/○
*漢文訓読体に多く女流文学に少ない。【ごと】+形容詞語尾【し】

たし

例歌:いさいかに深山の奥にしをれても心知りたき秋の夜の月
意味:「〜したい」「〜してほしい」
接続:助詞と助動詞(る・らる・す・さす)の連用形
活用:たく・たから/たく・たかり/たし/たき/たけれ/○
*平安後期から使われるようになった

まほし

例歌:跡見れば心なぐさの浜千鳥今は声こそ聞かまほしけれ
意味:「〜したい」「〜してほしい」
接続:助詞と助動詞(る・らる・す・さす)の未然形
活用:まほしく・まほしから/まほしく・まほしかり/まほし/まほしき・まほしかる/まほしけれ/○
*平安時代に入ってからできた語→古今集では【まくほし】【まくのほし】

見分けかた

なむ

上にくる語が連用形…助動詞【ぬ】の未然形+助動詞【む】(推量)
上にくる語が死・往…ナ変動詞の未然形+助動詞【む】(意思)
上にくる語が未然形。文末にある…終助詞(願望)
取り除いても文意が変わらない。文末が連体形…係助詞(強意)

その他メモ

助動詞組み合わせ早見表(作成中)

であるしているしていたしちゃうしちゃってるしちゃったしないしなかった
   たりき
たりつ
  てけり ざりき
ざりつ
のだなあなりけり たりけり  にけり ざりけり
だろう たらむつらむなむ
てむ
ぬらむにけむ
てけむ
ざらむ
ざりけむ
らしい    ぬらし   
ようだ たるめりたるなり  ぬめり  
そうだ  たりけむ    
に違いないなるべし  ぬべし
つべし
    
だろうな…     なまし
てまし
 ざらまし